「専門性がない」まま独立した私が、
誰にも真似できない役割を見つけるまで
新卒1年目でうつ寸前まで追い詰められ、退職。結婚して専業主婦になるも、半年で離婚。
「診断士として、これといった専門性がない」——そう語る高千穂さんは、それでも独立から4年、誰も担っていない役割を見つけ、いくつものコミュニティに欠かせない存在になっている。
「専門性がない」という不安と、どう向き合ってきたのか。
PROFILE
高千穂 香織さん
中小企業診断士。大手IT商社で法人営業を経験した後、中小企業診断士資格を取得。資格取得後はTAC講師、Webライティング、オンライン講座の運営など、複数の仕事に携わる。独立後は女性起業家向け創業支援施設の運営や、ビジネスコミュニティ「HiNet(ハイネット)」の運営事務局を務める。人が集まる場を整え、専門性を持つ人たちが力を発揮できる環境をつくる「コミュニティ運営」を、自身の専門分野として深めている。
新卒1年目、たった一人で背負わされた
高千穂さんのキャリアは、決して順風満帆ではなかった。新卒で入社した大手IT商社で、法人営業部に配属。6人のチームの中で、彼女だけが学校担当を任された。10年間ひとりで回してきた先輩の業務を、そっくりそのまま引き継ぐことになったのだ。
高千穂
全然わからなかったんです。周りの先輩もみんな自分の仕事で手一杯で、個人商店みたいな雰囲気。お客様から問い合わせが来ても、それがイレギュラーなのか、いつも通りのことなのかすら判断がつかない。明確な役割分担がされすぎていて、先輩方も助けてくれようとしたけどわからない。今思えば先輩方も私のサポートに限界が来てたんじゃないかなと思います。
お風呂に入れなくなり、通勤電車の中で涙が止まらなくなる。うつ寸前まで追い詰められ、彼女は退職を選んだ。
結婚、専業主婦、そして半年後の離婚
退職と同じ時期、結婚して専業主婦になった。だが、それも長くは続かなかった。
会社員も、専業主婦も続かなかった。実家に戻った彼女に、娘を案じた母がこう言った。「お父さんが持っている診断士っていうの、勉強してみたら」。
父は約20年前に中小企業診断士の資格を取っていた。何をする資格かもよくわからないまま、高千穂さんはアルバイトをしながらの受験生活を始めた。
1次は一発合格、2次は2回目で突破。診断士としての一歩を踏み出した。
「専門性がない」ことは、不安じゃなかった
合格後、TAC講師の道へ進んだのは、京都校の先生の後押しだった。ただ、「講師以外に資格を活かしてできる仕事ないじゃん」という想いもあった。勉強カフェの運営、Webライティング、オンライン講座の運営——診断士の資格に合格してからも、診断士業務以外の複業を重ねる日々。やがて勤め先の事業譲渡を機に、独立に踏み切る。
普通なら、実績も専門性もない状態での独立に、強い不安を感じるはずだ。だが、高千穂さんは違った。
森(聞き手)
独立する時、不安はなかったんですか。
高千穂
「自分には専門性が何もない」という感覚はありましたが、不安はあまりなくて。もし診断士の仕事がなくなっても、Webライティングの仕事もあるし、受験生時代ずっと続けていたマクドナルドでもう一度バイトに戻ることもできる。マクドナルドって世界中どこにでもあるじゃないですか。それが私にとってのセーフティネットでした。
専門性がないのは事実だけど、みんなそれぞれ何かしら専門性を持っている。だったら私も、これから作ればいいやって。
「社長って、そういえばいるんですか」
独立後、最初の仕事は診断士の先輩から紹介された、女性起業家向けの創業支援施設の運営だった。会員が増える一方で、現場には奇妙な空気が漂っていた。社長とパートスタッフの間に立つ人がいない。お互いに気を遣い合い、誰も本音を言えない。
そんな中、高千穂さんが何気なく発した一言が、状況を動かした。
高千穂
「この施設に所長って、そういえばいるんですか。誰がここのリーダーなんですか」と聞いたら、「そういえばいないから、高千穂さんやってよ」と。そこから、社長とスタッフの目線合わせや、オペレーションの整備を担うようになったんです。
この経験が、高千穂さんに一つの気づきをもたらした。自分は、何かのスペシャリストになりたいわけではない。専門性を持つ人たちが集まる「場」をつくり、回していくことの方が、性に合っている——。
気づけば「コミュニティ運営」の専門家に
中小企業診断士も多く所属するビジネスコミュニティ「HiNet(ハイネット)」でも、最初はセミナーに参加するだけだった。だが司会を頼まれたのをきっかけに、セミナーの準備や会員管理、新入会員向けのイベント開催まで、運営事務局として欠かせない存在になっていった。
誰かが決めた専門性の枠に自分を当てはめるのではなく、その場に足りない役割を見つけて拾い上げる。それが高千穂さんのスタイルだ。彼女が幹事役で大切にしていることを聞くと、二つの答えが返ってきた。
高千穂
一つは、計画通りに進めようとしないこと。欠席者が出たり急な変更があったりは当たり前なので、「変わったら変わったでいいよね」というスタンスでいます。
もう一つは、自分より先にその場をつくってきた人に、とにかく聞くこと。大手IT商社にいた頃、周りの人に聞けなかった反省があるので、判断基準も背景も、しつこいぐらい確認するようにしています。
独立をためらう人へ
森
独立に不安を抱えて踏み出せない診断士も多いです。どう感じますか。
高千穂
一度独立したら、ずっと独立し続けなきゃいけないわけじゃないんです。やりたいことがあるなら、まずやってみる。合わなければ会社員に戻ってもいいし、副業と両立してもいい。向いているかどうかは、やってみないとわからないので。
そもそも独立か企業内かは、結果論だと思っていて。今の会社でも転職しても実現できないことがあるなら、独立するしかない。「独立するかどうか」より、「何がやりたいか」が先にあるべきなんです。
最後に、これから築いていきたい専門性を尋ねた。
高千穂
「コミュニティ運営」を、唯一の専門と呼べるものにしていきたいです。世の中には様々なコミュニティがあり、コミュニティを活かしていきたい個人や法人って結構いるんです。でも一方で、人が集まる場はテーマも文脈もそれぞれ違うので、仕組み化がとても難しい。でも、だからこそAIには代替されにくい。他のやり方を参考にはできても、最終的には一つひとつ自分の手でつくるしかない。そこを極めていきたいですね。

編集後記
「専門性がない」は、役割を見つける余白かもしれない
高千穂さんの話で印象的だったのは、「専門性がない」と何度も口にしながら、そこに悲観がまったく感じられなかったことだ。
会社員も専業主婦も続かず、独立してからも「これといった強みはない」と語る。それでも彼女は、その都度「自分にできること」を探し、気づけば複数のコミュニティに欠かせない存在になっていた。
誰かが決めた専門性の枠に自分を押し込むのではなく、その場に足りない役割を見つけて拾い上げていく。「専門性がない」という言葉は、実は「どんな場にも入っていける」という、彼女ならではの強みの裏返しなのかもしれない。
経営伴走支援スキルを身につけたい方へ
高千穂さんが大切にしている「その場をつくってきた人に根気強く聞く」という姿勢。そして、計画通りにいかないことを前提に、その場の変化に寄り添う柔軟さ。これらは、経営伴走支援においても欠かせない力です。
経営者の話を聞き、場の空気を整え、答えを教えるのではなく一緒に見つけていく——専門性の有無以上に、こうした「向き合い方」が、長く頼られる専門家をつくります。
経営伴走トレーニングジムでは、高千穂さんのような「相手に寄り添い、場をつくれる診断士」になるための実践スキルを、9回以上の講義と10回以上のロールプレイで身につけていただけます。
「専門性がないから、独立に踏み出せない」という方こそ、ぜひ一度、経営伴走についてご覧ください。
取材・文:実践クオリティシステムズ株式会社 ※本記事は本人の確認を経て掲載しています。一部、固有名詞等はぼかして掲載しています。